hirschkalb's blog

"I beseech you, in the bowels of Christ, think it possible that you may be mistaken."

原状回復に困っている賃借人の方へのメモ

賃借人の原状回復にまつわる問題について、困っている方のためになればと思いメモを書いておきます。

原状回復の問題は実際には「出口」の問題

原状回復の問題に関わった方ならばおなじみの「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について、国土交通省のページには以下のように書かれています。

  • 「こうした退去時における原状回復をめぐるトラブルの未然防止のため、」
  • このガイドラインは、賃貸借契約締結時において参考にしていただくものです。
  • 原状回復の問題は、賃貸借契約の「出口」すなわち退去時の問題と捉えられがちですが、これを「入口」すなわち入居時の問題と捉え、

つまり、ここでは重ねて「借りる前にきちんとやっておけ」ということを述べてあるわけです。それはごもっともなのですが、それはまた、正論かつあまり役に立たないアドバイスというものです。私の見立てでは、契約前にこのガイドラインを読む人は1割もいないでしょう。多くの人は退去時の不当な請求に直面したときに初めてこれの存在を知るのだと思います。

退去時のチェックリストにサインをしてしまったが原状回復費用が高額であった場合も、よく言われるのは「サインをしなければよかったのに」というものです。これもまたもっともなアドバイスなのですが、何度言われたところで、してしまったサインは消えません。残念ながら、現時点での有益なアドバイスにはなりません。

すなわち、原状回復の問題は実際のところ契約時よりは退去時の問題なのです。それなのに、その観点に立ったうえで賃借人が不当な請求を退けるにはどうしたらよいかを述べたものが不足しているようです。

トラブルが起こったらどこかに相談すべきか

消費者センターや宅建協会への相談は、本人がして安心するならばすればよい、というのが私の意見です。当然、担当者に寄るところもあるとは思いますが、私の実感では、ふりかえってみると「してもしなくてもよかったかな」という感想です。

一方、官公庁などで実施している法律相談は非常に有益でした。訴訟の段階になった場合は相談をおすすめします。また、簡易裁判所の職員も丁寧に対応してくれますので、これも訴訟の段階になったときには出向いてみてもよいかもしれません。

電話等の内容は記録する

管理会社(あるいは大家)とのやりとりは記録しましょう。話しているそのときにはいかにもつまらないやりとりであったとしても、あとあと意外な所で証拠として効いてくることがあります。

内容証明に法的根拠はない

口頭でのやりとりで事がまとまらないと、やがて書面によるやりとりに移ります。具体的には内容証明郵便で通告状が送られてきます。書面には「時効中断」あるいは「法的手続き」あるいは「給与差し押さえ」などの手続きを「進めさせていただくことを御通告」される旨が書かれているでしょうが、この書面自体は書式こそ見慣れぬものでしょうが、実のところは単なるお手紙です。これが送られてきた段階で賃借人がすることは特にありません。

もしかすると通告通り差押命令が裁判所からくるかもしれませんが、そのときは不服申立てをすればよいでしょう。「法的手続き」というのはおそらくたいていは少額訴訟のことです。次に少額訴訟について述べます。

裁判所から呼び出されたら

裁判所から「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」が届いたら、これは通告状のように無視してはいけません。何もしないと自動的に負けてしまいます。ここから先は本来「訴状」や「請求の趣旨」によって対応の変わってくるものですが、適宜ご自分のケースに合わせて参考にしていただければと思います。

まず、少額訴訟になったならば、答弁書を作る必要があります。書式は裁判所から提示されているものと思いますが、そうでなければ裁判所のウェブサイトに答弁書のひな形がありますので(http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_minzisosyou/syosiki_02_09/index.html)これを参考にしてみたり、先述の官公庁の法律相談や簡易裁判所を利用することをおすすめします。

通常訴訟に移行しよう

どのような書式にせよ「請求の趣旨に対する答弁」を書くことになりますが、そこで少額訴訟から「通常訴訟への移行を求める」旨を記しておきます。その理由を述べておきましょう。少額訴訟は原則一回で審理を終えます。だらだらと何回もやらないわけです。そういうわけで廉価で迅速なのが特徴なのですが、それゆえに、少額訴訟は原告(ここでは大家や管理会社)に有利です。なぜなら訴訟において素人である賃借人が、一回の審理で自分の言い分をしっかり主張するのは容易ではないからです。

通常訴訟と聞くとテレビ等で見慣れているかもしれない法廷を思い浮かべる人もあるかもしれませんが、傍から見た目は少額訴訟と変わりません。「通常訴訟だから弁護士を頼まないといけないのだろうか」といった心配は無用ですし、「通常訴訟だから訴訟費用が莫大になるのではないか」といった心配も無用です。スタイルは少額訴訟のままです。実のところ、裁判官・原告・被告が円卓を囲んで「わりとゆるい感じ」で行われます。通常訴訟に「原則一回の審理」という条件をかけたものが少額訴訟だと思って下さい。それですから、通常訴訟への移行を求めると、変わるのは「原則一回の審理」という条件が外れることだけです。繰り返しになりますが、「通常訴訟になるから余計にお金がかかる」ということはありません。心配であれば簡易裁判所にも尋ねてみてください。

なお、通常訴訟への移行は被告(ここでは賃借人)がそれを希望した時点で行われます。つまり、「通常訴訟にしたいな」と思った時点で通常訴訟になるわけですが、実際には答弁書が裁判所に受け取られた段階でそうなると考えておけばよいでしょう。

ヒントなど

ここからは、大家や管理会社とのやりとりや答弁書作成時に役立つかもしれないことを書いておきます。

  • 大家か施工会社が内装の「仕上表」という図面を持っているので、型番等正確を期したいときは要求してみる。
  • 原状回復に関する法律はない。条文が有効か無効かの基準もない。それでは、何を根拠にするかといえば最高裁判例。最判は法律に等しい。
  • 国交省のガイドラインは消費者よりであるけれど、司法はこれに縛られない。司法はあくまで法律に縛られる。
  • 国交省のガイドラインは減価償却説に沿っているが、別に減価償却説によらない考え方もある。
  • そういうことなので、法律家のあいだでも混乱しているし、消費者センターなどの相談員のあいだでも混乱しているらしい。やっぱり最高裁の判決を参考にするのがいまのやりかた。
  • 混乱している例として、浴槽の償却期間も8年説、15年説(トイレと一緒という考え方)、20年説(家と一体という考え方)などあり。
  • 上の場合20年住んで取り替える場合どうなるのか。東京地裁平成23年2月8日では「折半しなさい」という判決で、最近はわりとこのパターンが多い(いま主流のパターン)。
  • 「勝つ」ことだけではなく和解の可能性も視野に…。いろいろトータルで考えてどうもっていくのがよいか考える。
  • 大家や管理会社がいったい何と比較して発言しているのかに注意する。二つ以上ないと比較はできないはず。「根拠は何ですか?」。それ以外に言うことなし。
  • 脅された場合は「民事では済まなくなりますよ?」。
  • 文章は、事実と違うところを違うと書き、証拠を添え、場合によっては重要事項説明時にそのような説明はなかったと書き、記憶に無いところは記憶に無いから疎明せよ(証拠を示してほしい)と書けばよい。(疎明義務は原告にある)
  • 重要事項説明については、文章で書いてあったとしても口頭での説明が不足していれば説明義務懈怠となり、これは過失扱いとなる。

ディスクレイマー

これは私と似たようなトラブルを抱えている方の参考になればと思って書いたものですが、よくよくご自分のケースと照らしあわせて参考になさってください。相談される方によっては、まるきり正反対のことを助言する人もあるかもしれません。あくまで一つの意見として扱ってくださいませ。

 

 

 

 

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